1.なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。
60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。
2.降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、低カリウム血症、耐糖能悪化、尿酸値上昇などの副作用にもかかわらず、最近の大規模臨床試験の結果では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない脳卒中、心筋梗塞予防効果が証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。
降圧利尿薬は痛風の患者には使用するべきではない。また緑内障の発症を著しく促すことも最近明らかになっている。
3.糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされるために長時間作用型Ca拮抗薬の併用も不可欠である。
腎障害が高度な場合にはACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は用いることができない。
4.心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の併用が有効である。
最近βブロッカーの少量追加、K+保持性利尿薬も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。
5.虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。
特に、冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。
6.高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要がないとされていたために、2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの降圧目標値が設定されてきた。
しかし最近の大規模臨床試験では、年齢に関わりなく積極的な降圧が必要であることを明らかにしており(HYVET studyなど)、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定は行っていない。
また日本の高血圧治療ガイドラインも、2004年版では高齢者高血圧も140/90mmHg未満までの降圧が必要であるというように変更された。
7.慢性腎臓病を合併した高血圧の治療については、2008年に日本腎臓学会・日本高血圧学会から共同でガイドラインが発表された。
第1選択はレニン−アンジオテンシン系抑制薬とされ、第2選択は利尿薬またはCa拮抗薬、第3選択はCa拮抗薬または利尿薬とされている。
8.妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるか、ある恐れがあり、ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。
9.αブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは有用かもしれない。
しかし、 αブロッカーは最近の大規模臨床試験では最も古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり、最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬から外されている。
●高血圧の食事療法
●食塩制限(ナトリウム制限)
減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少するとの報告があり、原因によらず、ほぼ全ての高血圧で塩分(塩化ナトリウム)摂取制限は必須である。
2006年の米国心臓協会(AHA)の勧告による食塩換算値の理想的な摂取量は3.8g/日とされているが、日本では目標値として6g/日が用いられている。
食品の含有量が食塩(塩化ナトリウム:NaCl)でなくナトリウム (Na) の表示の場合は、2.5倍して塩化ナトリウムに換算する。
健康ブームに乗って「この天然塩はミネラル豊富なため多く摂っても高血圧にならない」などの宣伝が散見されるが、このような文言をうのみにすることは危険である。
上記メカニズムにより、問題は塩の質ではなくナトリウムの量である。
また、炭酸水素ナトリウム(重曹)もナトリウム源となる。
調味料として塩分をほとんど摂取しないヤノマミ族には高血圧を発症するものはおらず、健康に生活していることから、日常生活で醤油・味噌を用いる日本では調味料としての食塩の摂取下限はないと考えられている。
なお、高血圧患者において減塩療法が有効なのは食塩感受性高血圧で、全患者の30%から40%とする報告がある。
●カリウム摂取
血圧上昇を抑制する作用があり、早朝スポット尿検査からもカリウム摂取は重要と考えられている。
カリウム摂取量が多い成人ほど収縮期および拡張期血圧が有意に低く、脳卒中リスクも低いことが報告されている。
2012年WHO は、カリウム摂取のガイドラインを初めて発表し、推奨摂取量を90mmol/日(3519mg)以上とした。(カリウム 1mmol = 39.1mg)
●飲酒の制限(節酒)
酒の摂取では一時的な血管拡張により降圧するが、飲酒習慣は血圧を上昇させることはよく知られている。
毎日の飲酒習慣は 10歳の加齢に相当する血圧値を示す。
降圧効果は1 - 2週間以内に現れる。
大量飲酒者は急に飲酒の制限を行うと血圧上昇をすことがあるが、飲酒制限の継続により数日後から血圧は下がる。
エタノール換算量は、男性が20 - 30ml/日(日本酒換算1合前後)、女性が10 - 20ml/日、これ以下にするべきである。
●禁煙
喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。
喫煙はβ遮断薬の降圧効果を減じる作用がある。
●生活習慣
疫学研究から寒冷が血圧を上げることが示され、季節では冬季に血圧が高い。
高血圧患者では冬季の寒冷刺激を緩和するために、トイレや浴室などの暖房も望まれる。
入浴は熱すぎる風呂、冷水浴、サウナは避けるべきである。
便秘に伴う排便時のいきみは、血圧を上昇させるので避ける。
夕食後から就寝までの時間が2時間未満の集団と、3-4時間空けた集団のロジスティック回帰分析を行った結果、3-4時間空けると高血圧の予防につながる可能性が示唆された。